西光寺の金の鶏  (民話紹介) 今田町文化財調査報告より         現地案内板写真

むかしむかし、西光寺のてっぺんに、えらいお上人様が住んでおられました。

お上人様は諸国を回って苦しい修行をつみ、医療や農法を勉強しておられましたので、山から里におりてきては、ふもとのお百姓さんたちに作物の作り方を教えたり、病気で困っている人々を治したり、また人々を集めてありがたいお話をされていました。

お百姓さんたちは、この上人様の徳を慕って田んぼでとれた初物を持っていったり、作りたてのぼたもちをお供えしたり色々とお上人様のお世話をしていました。

お上人様は、山の上で粗末な庵を建てて住んでおられましたが、その中でひときり目立つ立派な木の箱にむかって一心にお祈りをされていました。

村人たちが不思議に思って「お上人様、毎朝その箱を拝んでおられますが、その中に何が入っているのですか」とたずねました。上人様は「この箱の中には村が飢饉になったり疫病におそわれたりして村中が滅んでしまうような大変なときに、きっと村を救ってくれるようなものが入っている。

私は、そんなことが起こらないように毎日お祈りをしているのじゃ。

しかし、この箱の中を見ると、きっと悪い心を起こすものが出てくるので決して箱の中を見てはならぬ」と申されました。

しかし、見るなといわれると見たいのが入情でございます。ある日、お上人様が留守の間に村の元気な若衆が、そっと木箱のふたを開けました。

なんと中には金無垢の鶏がまばゆい光を放っているではありませんか。

このことを村人の口から口へ伝わって「お上人様の庵には金の鶏がいるそうな」とたいそう評判になりました。

この村を通りかかった旅人がこの話を耳にし、よくない考えを起こしました。

お上人様が寝静まった真夜中に庵に忍び込み、そっと箱に手をかけました。

するとどうでしょう。突然、昼をあだむくような稲光とともに大きな雷鳴がとどろき、悪い旅人は深い谷間に転げ落ちてしまいました。

お上人様は何事もなかったようにすやすやと寝入っておられました。

この事があって23日たったある日、お上人様は山からおりて村人を集めて申されました。「わたしがしてはならぬと申したのに背いた者があって、悲しいことが起こってしまった。わしは、今日この地を去ってまた修行の旅にでるが、宝物はこの山中に残しておく。

皆が力を合わせ一所懸命に働いておればきっと宝物が役に立つときが来るであろう。」そうしてお上人様は、どこかへともなく旅立っていかれました。

それからずっと後にこの山の上に立派なお寺が建立されました。

金鶏の話は口から口ヘと伝わって『金鶏山西光寺』と名付けられました。

いまでも西光寺山の別名を『金鶏山』といい、お寺の跡が残っています。

そうして以来、正月が明けると暗闇の西光寺山のどこかで、金鶏が四方に向かって金色の光を放つと言い伝えられていますが、まだそれを見た人はいないそうです。

 
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